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悲しみは雪のように
浜田省吾1992年発表のシングル「悲しみは雪のように」です。
ご存知のとおり、浜田省吾初めてのシングル・ヒットチャートNo.1獲得曲です。
フジテレビ系ドラマ「愛という名のもとに」の主題歌として起用され、爆発的な大ヒットとなりました。
もともとは1981年に発表されたシングル曲で、アルバム「愛という名のもとに」にも収録されていたもので、'92バージョンはリメイク盤でした。
テーマは「人を愛するということ」。
浜田省吾には珍しく現代詩的な歌詞が先行する曲です。

君の肩に悲しみが雪のように積もる夜には
心の底から誰かを愛することができるはず
孤独で君のからっぽの そのグラスを満たさないで
誰もが泣いてる 涙を人には見せずに
誰もが愛する人の前を気付かずに通りすぎてく
実は、ドラマとのタイアップには、長年のファンとして相当に複雑な気持ちがありました。
確かに、当時はドラマとタイアップすることでニューミュージック系のミュージシャンがミリオンセラーを記録していた時期でもあり、まだ起用されていない大物といえば浜田省吾くらいしか残っていなかったという事情もありました。
いま出せば、大ブレイク間違いなしというタイミングでの時で、浜田省吾としても事務所としてもレコード会社としても、代表曲となるシングルヒットが欲しかったことだと思います。
アルバムの売り上げやコンサートの動員数に比べて、シングルの売り上げは決して大きな数字ではなかったというのが、当時の浜田省吾だったんですね。
ドラマのために曲は書けないという浜田省吾のポリシーにより、昔の曲をリメイクするという妥協点で、「悲しみは雪のように」がタイトル曲として選択されたのは実に不思議な感じがしますね。

この曲は、1981年の発売当時、決してヒット曲とはなりませんでしたが、なんだか暖かい気持ちを伝えてくれたことを良く憶えています。
それだけに、大量生産大量消費のドラマ主題歌として使われることに、気持ち的に抵抗があったことも確か。
もっともそれをいうと、古くからのファンが「風を感じて」以降の"新しい"ファンに感じた複雑な気持ちの話になってしまうわけなんですが(笑)

結果的に大ブレイクとなったこの曲で、浜田省吾といえば「悲しみは雪のように」を歌ってた人だね〜という評価を獲得することとなりました。
本当はもっと良い曲があるんだよ〜というファンの言葉も届かぬうちに、「悲しみは雪のように」以外にも良い曲(=ヒット曲)あったっけ?という価値観が定着したとも言えるわけなんですが。
個人的には、浜田省吾には大ブレイクのシングルヒットなんて必要なかったと、今でも思ってます。
もちろん、この曲がファン層を拡大したことはよく理解しているつもりなのですが。

君は怒りの中で 子供の頃を生きてきたね
でも時には誰かを許すことを覚えて欲しい
泣いてもいい 恥じることなく
俺も独り 泣いたよ
大ヒットした曲の宿命として、時間が経つと忘れられてしまうということと、歌の内容について深く吟味されないという、ふたつのマイナス面があります。
けれど、この歌は本来大量消費的に捨て去られてしまう曲ではありませんでした。

この歌には、吉野弘の「雪の日に」に通じるメッセージが込められているような気がします。

雪は 一度 世界を包んでしまうと
そのあと 限りなく降りつづけねばならない
純白をあとからあとからかさねてゆかないと
雪のよごれをかくすことが出来ないのだ

誠実が誠実を
どうしたら欺かないでいることが出来るか
それがもはや
誠実の手には負えなくなってしまったかのように
雪は今日も降っている

雪の上に雪が
その上から雪が
たとえようのない重さで
ひたひたと かさねられてゆく
かさなっていく
「夕焼け」などの代表作で知られるこの現代詩人の作品を、読んだ記憶のある浜省ファンは多いはず。
「CLUB SNOWBOUND」のアナログ盤で、浜田省吾はこの詩を提示していました。

降り積もる雪というのは、様々な象徴としてずっと扱われてきた題材です。
そして、浜田省吾はこの曲の中で、人の肩に積もる悲しみが多いほどに、人には優しくなれるという見方を説いています。
おそらく、この曲は浜田省吾作品の中で、もっとも優しい曲のひとつかもしれません。

実は、この曲の生まれた背景には、浜田省吾の実の母親の病気という悲劇的な事情があったといわれています。
母親が通れて意識不明の重体になった時、彼は子供の頃の自分を思いだしていたのかもしれません。
「怒りの中で」過ごしてきた子供の頃のことを。
誰かを許すことができなかった自分を思い出しながら、彼は母親の病気とともに、自分自身の存在というものと対峙していたような気がするのです。

いよいよ雪が降り始める季節に、僕はなんとなくこの曲を思い出しています。
それは、かつて大ヒットした流行曲としてではなく、いつまでも心の中に残る優しいポップ・ミュージックとして思い出しているのです。
| 全曲レビュー(☆シングル☆) | 22:11 | - | trackbacks(1) |
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